『誰のためのデザイン?』を読んだ
CATEGORY:読書
僕はフロントエンドエンジニアとしてこれまで働いてきて、そして今も働いている。
でも最近の仕事は今までとはちょっと違って、少しだけデザイナーに近づいている感がある。
もちろんこれまでもフロントエンドエンジニアとしてプロダクトの UI に対して責任を持って仕事をやってきたけれど、それでもやっぱりデザイナーが持ってきたデザインがあってそれをベースにあーだこーだ言い合って実装に落とし込んだりしてた。
それが今はどちらかと言うと既存のプロダクトの UI 改善点を見つけてより良い UI にするって感じの働き方になっている。もちろんそれを進める上で改善速度を高めるためにフロントエンドの基盤を作り替えたりとかそういうこともしてる。
それは、現職でのポジショニングの結果でもあるし、僕が今現在描くキャリアパスの結果でもある。
なんにせよ新しい職場で僕が今までやってきたことの強みを活かしつつ一歩新しい挑戦をしていることになる。
そんなわけで最近はフロントエンドの技術だけじゃなくてデザインの勉強もしてたりする。
その中でデザイン系の書籍も読むようになったので読んだものはちゃんとまとめていこうという心意気でやっていき :muscle:
ということで、名著と名高い『誰のためのデザイン?』に最初に手を出してみた。
僕が読んだのは増補・改訂版なので1990年に販売された初版に対して、2015年に古かった事例を新しいものに変えたり時代に合わせて変化した部分を書き直したものです。
そのこと自体でこの本が長く愛されてきたということがよくわかる。
『誰のためのデザイン?』まとめ
誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論
この本は僕が今やっている Web の領域に対して書かれたデザイン本ではないが、それでも全てのデザインにおける基本原則やデザインをする人間が持つべき姿勢について教えてくれる。
本の始まりとして、近年の技術の発達により機械にできることが増えた結果、僕たちの身の回りの機器が複雑化してしまっている事実が出てくる。
そしてその複雑さはデザインで解決することができること、そのための考え方や手法が語られる。
僕が読んでみて印象に残った考え方や言葉を並べてみる。
良いデザインに置ける重要な特性は発見可能性と理解である
- 発見可能性
- どういう行動が可能か、どの部分をどうすれば良いのかを見つけ出せるか
- 理解
- それが一体何を意味をしているのか
- その製品はどんな使われ方が想定されているのか
- 色々異なる操作部や設定は何を意味しているのか
つまり、それがなんのために作られてどのような用途があるのか、そしてその具体的な使い方がその機器を一見してわかることが良いデザインがなされた機器であるということ。
人間中心デザイン(Human Centered Design: HCD)
- まず人間のニーズ、能力、行動を取り上げ、それからそのニーズ、能力、行動に合わせてデザインする
- 良いデザインは心理学とテクノロジーを理解するところから始まる
- 良いデザインは良いコミュニケーション(機械から人へのコミュニケーション)ができる
人間中心デザインは哲学であり、その原則はできるだけ長い間問題を特定することを避け、その代わりに暫定的なデザインを繰り返していくことにある。
人間の真のニーズに合致する製品を作るために常にその原則を考慮して時間や予算などの制限の中で最良のモノを作る挑戦をし続ける必要がある。
インタラクションの基本原則
- アフォーダンス
- モノの属性と、それをどのように使うことができるかを決定する主体の能力との間の関係性のこと
- 椅子は支えることをアフォードするもので、それゆえ座ることをアフォードする
- ガラスは透かして見ることをアフォードするが(アフォーダンス)、物理的なモノが通り抜けることを阻止する(反アフォーダンス: インタラクションの阻止)
- シグニファイア
- アフォーダンスの存在を示す特性
- アフォーダンスは目に見えなくても存在するが、それを知覚可能にするのがシグニファイア
- ドアは開けて通過することができるが、それを知覚させるのがドアノブというシグニファイアである
- 対応づけ
- どのスイッチを押したらどの電気がつくのか、などのような行為と結果の対応づけがうまく働くようなデザインをしなければならない
- フィードバック
- 行為の結果を伝えること
- すばやくなくてはならない
- 貧弱なフィードバックではいけない
- フィードバックが多すぎてもだめ
- 概念モデル
- きわめて簡素化された、あるものがどう動くかについての説明
- 概念モデルは役に立っている限りは正確である必要はない
- コンピュータのフォルダは、実際のところはコンピュータの中に物理的なフォルダが存在するわけではないが、フォルダという概念モデルで説明することで簡単に理解ができる
アフォーダンスは知覚可能であることが大事で、ガラスの通り抜けを阻止するという反アフォーダンスは知覚しづらいため、鳥や人がガラスにぶつかってしまう事件が多発する。
これを解決するためには反アフォーダンスを知覚可能にするためのシグニファイアを作る必要がある、みたいな思考フローができる。
テクノロジーの逆説
腕時計は元々時間を見るためだけのものであり、その機能は一目見て明らかなものであった。
しかしテクノロジーが発達することによって腕時計は、デジタルになり、タイマーの機能を持ち、フィットネスの機能を持ち、電話の機能を持つようになった。
便利になった反面、使い方を覚えにくく使いにくくしてしまい、暮らしを複雑怪奇なものとしてしまう。
ヒューマンエラーという用語は使わない
大抵のヒューマンエラーはデザインが悪い結果として起こるのであり、それはシステムエラーと呼ぶべき。
行為の七段階理論
行為には実行と評価という2つのフェーズがあり、それをさらに細かくすることで7つの段階に分けることができる。
- ゴール(ゴールの形成)
- プラン(行為のプラン)
- 詳細化(行為系列の詳細化)
- 実行(行為系列の実行)
- 知覚(外界の状態の知覚)
- 解釈(知覚したものの解釈)
- 比較(ゴールと結果の比較)
2~4が実行であり、5~7が評価にあたる。
行為は意識的に行われることもあるが、ほとんどは無意識的に行われる。この行為のどこかに欲求との隔たりがあると、それは新しい製品やサービスを作るチャンスと言える。
ドリルが欲しい -> いやドリルではなくて穴が欲しい -> いや穴ではなく壁に棚をつけたい -> いや本を収納したい、みたいな
七段階理論に人がシステムを使うときの質問を当てはめる。
| 七段階理論 | 質問 | | :--------- | :--------------------- | | ゴール | 何を達成したいか | | プラン | 代替となる行為は何か | | 詳細化 | 何ができるか | | 実行 | どうやってやるのか | | 知覚 | 何が起こったのか | | 解釈 | それは何を意味するのか | | 比較 | それで良いか |
上記の質問の答えは7つのデザイン基本原則を使うことで導くことができる。
- 発見可能性 : どのような行為が行えるのか、機器の状態はどうなっているのかが判断できる
- フィードバック : 行為の結果と製品やサービスの現在の状態についての完全かつ継続的な情報がある
- 概念モデル : デザインは理解と制御感に繋がるように、システムの良い概念モデルを作るのに必要な全ての情報を伝える
- アフォーダンス : 望ましい行為を可能にするための適切なアフォーダンスがある
- シグニファイア : 効果的にシグニファイアを利用することによって、発見可能性を確かなものにし、フィードバックが理解可能な形で伝えられる
- 対応づけ : 制御部と行為の間の関係は良い対応づけの原理に従う
- 制約 : 物理的、論理的、意味的、文化的な制約を与える。これによって行為を導き、解釈のしやすさを助ける
感想
この本が25年以上、長く読まれ続けてきた理由として、デザインの小手先のテクニックではなく根本的なデザインの考え方について深掘りしているからだろうなと感じた。
つまりこれを読んだからといって作る Web サービスがイケてるかっこいいものになるわけではないけれど、ここで学べる考え方を実践して日々生活の中に溢れるデザインを見て改善の思考力を鍛えて自分のプロダクトで意識し続けることで、確実にユーザーの体験をよくすることはできる。
著者は終始、人間中心デザイン、つまり人間が本当に望んでいることに対してそれをスムーズに行えるようなデザインをする重要性について説いている。
人間が本当に望んでいることというのは、人間が言っていることではなく、その言っていることに隠れている本質的な欲求のことである。それを導くための手法を伝え、考え続けることの重要性を教えてくれる。
テクノロジーが進化していくことは確実に正しいことであり、僕らの生活を豊かにしてくれるもの。けれどその反面、テクノロジーの進化によってできることがどんどん増えていく結果、僕たちの身の回りのものはどんどん複雑化していくことになる。
そこでその進化を否定してアナログに戻ることを推奨するのではなく、デザインの力によって進化したテクノロジーを人間が享受できるように機械と人間の橋渡しをするのがデザイナーの役目である。
そう考えるとそこにはロマンがあるしデザインがどれだけ重要なものかがよくわかる。
僕は Web の世界でやっているので Web サービスというプロダクトという規模に収まることになるが、その中でどれだけヒューマンエラー(つまりはシステムエラー)を無くすことができるか挑戦したい気持ちが高まった。そしてその手法は十分に学ぶことができた。
生活の中で、何かのミス・隔たりが発生したと感じた時にそれをヒューマンエラーと決めつけずシステムエラーであるとして、じゃあどのようにデザインすればそのエラーをなくすことができるか、というのを日常的に考えて改善力を高めていきたい :muscle:
ここでは途中で力尽きたのでほんの少しの重要なワードをまとめただけに留まったけれど、実際にはもっと多くの手法・考え方を多くの事例を使って説明しているとても読みやすい本なのでぜひ読んでみて欲しいなと、そう思います。
誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論
おわり :beer: